Stan Butcher 『His Birds & Brass』LP 1966年作

英国のレーベルCBSが、60年代後半に高音質でラウンジ系ジャズを楽しめるように始めた

のが「スーパーステレオ」シリーズ。高級なスピーカーでなくても、その臨場感溢れるサウ

ンドを体感出来るので、誰でも手軽にハイ・クオリティな音質を味わえます。もちろん音質

に強いこだわりを持つ方々からも定評はあるみたいですが、私の様な素人でも、一つ一つの

楽器の音色が鮮明に再現されているのが目に見えて分かります。音質重視で音楽を楽しみた

い方には打って付けの作品と言えますけど、実際は選ぶ程に多くはリリースされていないの

で聴き手を選ぶものとなっています。

Stan Butcherの「His Birds & Brass」名義による作品は、1966年~67年に掛けて4枚リリ

ースされていて(「Birds & Brass」名義で1976年作『Golden Hour Of Birds And Brass』

もあります)、その内の3枚がこの「スーパーステレオ」仕様のものです。その中でも特に推

し薦めたいのが、今作なんです。Barbara Mooreが参加しているということで、Soft Rock

本で掲載されたり、各所で取り上げられて名盤の1枚として知られてますが、正直この手のス

キャット・ジャズにあまり耳が肥えていない私にとっては、どれを聴いても当時無数にあっ

たスキャット系のライブラリー物と区別がつかないんですね・・( ̄∇ ̄*)ゞ ただ、ジャズ

色の強い『Swing Like A B……』や、イージー・グルーヴィーな『Sayin’ Somethin’~』と

 

比較すると、ラテン系の南国サウンドが満載なこの1st Albumの方が全体的に内容が良く、

個人的には好きな1枚。1曲だけボサノヴァ調のアイランド・メローな曲が収録されているん

ですが、これは数あるBarbara Mooreの作品群の中でも私的ベスト5に入る名曲。これだけ

でも聴く価値は十分にある作品だと思います。で、ついでなので、アルバムのご紹介に加え

てStan Butcherの軽い経歴なども踏まえてから内容に入ります。

Stan Butcherについて

1920年1月26日ロンドンにて出生したStanley Robert “Stan” Butcherは、ジャズ~イージ

ーリスニング系を専門としたピアニスト、作曲家、アレンジャー、バンドレーダーとして活

躍したミュージシャン。9才の頃に嫌々ながらピアノを習い始めましたが、それが彼にとって

後の人生を大きく変えるきっかけになりました。というのも、3年後には自らダンス・バンド

を結成したからです。バンドでの経験が実力に結びつき、その後「Boosey & Hawkes」で

ピアニストとして雇われます。これが、彼の初めてとなる仕事になりました。今ではクラシ

ック系の出版社として知られる「Boosey & Hawkes」ですが、当時はヨーロッパ各国に拠

点を持つ大手国際音楽会社でした。そこで彼は、ピアニストで働く傍ら将来のためにと独

学で和声法と編曲を学ぶます。

そして時は第二次世界大戦真只中、当時20才のStanは1940年に歩兵部隊に派遣され、軍に

従事します。1945年戦争が終わりに差し掛かる頃にダンスバンドを組まないかと、トロンボ

ーンニストのDon Lusherに声を掛けられ、ギタリストのJack Toogoodと共にハンブルクで

定期的にラジオ演奏をしていたそうです。その後退役してからは、Joe Daniels、

Freddy Randall、Bernie Stanton、Geoff Sowdenなどなど、多くのミュージシャンと関わ

りながらピアニスト・アレンジャーとして活動します。

彼の一番の功績となったのは、1959年にSyd Cordellと共作した「Sing、Little Birdie」が

Eurovision Song Contestで第二位に選ばれたことでしょうか。この曲は夫婦デュオの

Pearl Carr & Teddy Johnsonによって歌われ、英国ヒット・チャート12位を記録しまし

た。その後もミュージシャンとしての活動は続け、テレビのジングルから映画の付帯音楽ま

で数多くの作曲、アレンジをこなしていきます。

参加ミュージシャン

監督・指揮:Monty Babson

エンジニア:Adrian Kerridge

トランペット:Leon Calvert , Albert Hall , Bert Izzard

ベース:Brian Brocklehurst

ギター:Ernie Shear

ピアノ:Martin Slavin

ドラム:Barry Morgan

ヴォーカル:Barbara Moore , Daphne Bonney



アルバム内容

今作は両面6曲ずつの計12曲の収録で、Stan Butcherのペンによるオリジナル・ソングは

5曲。他は、ジャズのスタンダード・ナンバーが占めております。この「His Birds &

Brass」という名義では、「Brass」と「Birds」による交互に演奏をする会話形式のスタイ

ルを取っていて、ステレオ効果を駆使した構成になってます。主に「Brass」が左から、

「Birds」が右から聴こえてきて、全体の演奏は両スピーカーから均等に聴こえてきます。

「Brass」と一口に言いましても、3人のトランぺッターが代わる代わる演奏しているんで

す。誰がどの曲でソロを担当しているかは分かりませんが、皆さん上手 (ノ´▽`)ノオオオオッ♪

そして「Birds」の方は、女性ツイン・リードのBarbara MooreとDaphne Bonney。

「Bird」というのは女性、女の子という意味のイギリス英語のスラングになりますが、男性

が女性に対して使う言葉です。アメリカで言うところの「Chicks」ですね。

さて、肝心のサウンドに関してですが、全編通してスキャットとトランペットの音色が楽し

める内容になってまして、表ジャケのイメージから何となく想像出来るようにラテン・フレ

ーバーが散りばめられています。中にはまったりしたトロピカルな南国風サウンドもあった

りして、そこがジャズ特有のスタイリッシュな4ビートと対照的なリズムなので、そのコント

ラストが今作の魅力の一つでもあるんです。そこら辺を意識して聴くと、より楽しめるかも

しれませんね。以下、収録曲になります。

Side-1

1 「One Morning In May」・・・Hoagy Carmichael

2 「Clunky」・・・Stan Butcher

3 「Dow De Dow Dow Dow」・・・Duke Ellington, Johnny Hodges

4 「Sweet Pussycat」・・・Cy Coleman

5 「Ja Da」・・・Bob Carleton

6 「Janie」・・・Stan Butcher

Side-2

1 「Should I」・・・Nacio Herb Brown

2 「Big Mike」・・・Stan Butcher

3 「Mifanwy’s Dance」・・・Stan Butcher / M. Jones

4 「Dardenella」・・・Felix Bernard

5 「Twosome」・・・Jerry Allen

6 「Sound Of Mars」・・・Stan Butcher

気になる曲と言えば、まず冒頭の「One Morning In May」。出だしのウッド・ベースと

瑞々しいスキャットの登場で一気に曲に引き込まれます。饒舌なベースにホーンが軽やかに

絡んできてスキャットと交互に会話をしながら曲が展開。小刻みなビートに乗るスウィンギ

ンなホーンの鳴りもゴキゲンです。3曲目「Dow De Dow Dow Dow」は、スキャット唱法の

言葉が直接タイトルに付けられていて、スウィンギンに聴かすラテン・チックな可愛いメロ

ディと、元気一杯でラグジュアリーなスキャットが聴き所。5曲目「Ja Da」は軽快なスウ

ィング・ナンバー。透明感あるスキャットでふわふわした柔らかみのある1曲。Barbara

Moore色が強く出ていますね。

B面冒頭の「Should I」は、アップ・テンポな明るい曲。キャッチーなスキャット・ワーク

と中盤の変拍子ワルツによるサウンド・チェンジは見事。続く「Big Mike」は一転落ち着き

のあるスロー・ナンバー。雰囲気を楽しむ正にリラクシンな1曲。

5曲目「Twosome」は、小粋なジャイヴとスウィング感が快調で、スピード感あるノリの良

いリズムとスタイリッシュな演奏に思わず引き込まれます。

ゆいさんのおススメ

私的ハイライトは、Stan Butcherによるオリジナルの「Janie」。南国の暖かさを感じるボ

ッサ・メローチューン。息を呑むスリリングさと、南国のまったり感が見事に織り交ぜられ

、絶品な1曲に仕上がってます。涼し気なスキャットと、ツボを押さえたヴィブラフォンのプ

レイが特に印象的で、凛とした品位のあるクールSoft Rockを演出してます。

最後に

また機会があればStan Butcherの他の作品や、CBSのスーパーステレオ・シリーズのレコー

ドを紹介をさせて頂こうかと思ってます。ということで、今日はこの辺で。